詐害行為
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章31第第1節 伝統的理解第1節 伝統的理解第1編 概説第1章 制度根拠1 詐害行為取消権の意義第1 責任財産の保全のための制度 債務者が所有する財産を他人に贈与するなどして,自らの財産を減少させる行為を行ったような場合,仮にその債務者が,贈与した財産以外には十分な資産を有していないケースであれば,その債務者に対し金銭債権を有する債権者は,結果的に自らの債権の回収を図ることが困難になってしまう。債務者が任意に債務の履行をしない場合,債権者は民事訴訟手続によって判決を得ることで債権の存在を公的に確定してもらい,さらに,その判決に基づき債務者の財産に対し強制執行手続を行うことで,債権の内容を実現するのが,法的に用意された権利実現のための法的仕組みだからである。そこで,債務者が責任財産を減少させ,あるいは,隠匿,費消しやすい金銭に替えること等により,債権者による債務者の責任財産からの債権回収を困難とするような行為が行われた場合には,債権者はその債務者の行為を訴訟において取り消し,逸出財産の回復を図ることが認められるべきである。これが詐害行為取消権(民424条以下)である。 この詐害行為取消権が認められるのは,いかなる理由からか。詐害行為取消権の制度根拠に関する理解が,この権利の成立要件,行使方法及び効果の解釈論に大きな影響を与えることになる。詐害行為取消権は,本来,債権者と債務者との間の相対的(対人的)な権利であるはずの債権が,債務者以外の第三者である受益者,転得者らに対して一定の効力を及ぼすという点で特殊な法制度となっている。このような特殊な権利を適切に運用するためには,第1 責任財産の保全のための制度詐害行為取消権の制度根拠

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