はしがきii為取消訴訟を本人訴訟として提起している多くの方からの相談が寄せられている。債務者が一定の財産を処分したことについて,債権者としてどうしても納得が行かず,弁護士のもとに相談に行っても,詐害行為取消訴訟は困難が伴うとして受任を断られ,やむなく本人訴訟を提起したというケースが圧倒的に多い。詐害行為取消訴訟が提起されることは少ないというのは,あるいはこの訴訟に精通した弁護士が少ないことに由来するのかもしれないと感じている。そうであれば,詐害行為取消訴訟に特化した一冊の書籍を刊行することができれば,この訴訟に対する弁護士の負担を和らげることができると考えている。 以上,企業取引に関わる者にも,そして,訴訟を担当する弁護士にとっても,詐害行為取消訴訟に特化した実務解説書を刊行することには重要な意義があると考えた。これが本書刊行の第一の理由である。 筆者は,昭和63年に弁護士登録をして以来,30年余にわたり弁護士として訴訟実務を経験している。大学時代に師事した下森定法政大学名誉教授が,我が国における詐害行為取消権に関する泰斗のお一人であったため,学生時代からこの権利には強い関心があったが,弁護士となってからは金融機関の顧問業務などを通じて,この権利の重要性を認識すると共に,その解釈が難解であることも実感した次第である。 そして,筆者の詐害行為取消権に関する学問的興味と実務的関心を飛躍的に高めてくれたのが,2009年11月から開始された法務省法制審議会民法(債権関係)部会における改正債権法の審議である。本会議99回,分科会18回の合計117回,2015年2月まで5年余に及ぶ審議は,約120年ぶりに民法債権法を全面的に改正するものであり,平成の法改正を締め括る一大事業であった。筆者もこの審議会の幹事として審議に参加し,詐害行為取消権の改正に直接,関与することができた。新しい詐害行為取消権制度のあり方に関する真摯かつ本格的な議論を通して,筆者の詐害行為取消権に関する興味・関心は決定的なものとなり,審議会終了後,筆者は京都大学大学院法学研究科に社会人入学し,「詐害行為取消権の行使方法とその効果」と題する論文を執筆し,博士号を取得した。新しい詐害行為取消権が学問的研究の対象としても極め
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