詐害行為
7/64

iiiはしがきて魅力的であることは3年余の研究活動を通じて実感している。しかし,新しい詐害行為取消権制度を実務において適切に運用することは,学問的興味に止まらない司法的課題である。 改正債権法による新しい詐害行為取消権は,敬意を込めてモンスター判例などと称された大判明44・3・24民録17輯117頁以来の相対的無効構成を見直すなどの抜本的な変更がなされている。倒産法上の否認権との平仄を意識した諸々の改正も,詐害行為取消権の制度趣旨そのものの見直しを迫るものとなっている。これらの新しい詐害行為取消権を実務において定着させることは決して容易ではない。新しい詐害行為取消権の内容を十分に理解するものによる実務解説書が必要である,これが,筆者が本書を刊行したいと思った第二の理由である。 改正債権法が,既に2020年4月1日に施行され,その運用が開始されている現在,弁護士としての30年余の実務経験,法制審議会における立法への関与,京都大学における3年間の研究,そして,法政大学法科大学院における2004年以来の民法及び民事訴訟に関する教授歴に基づき,本書を上梓することには一定の意味があると考えている。 本書は大きく3つの部分から構成されている。第1編は,新しい詐害行為取消権の概説である。改正債権法によって大きく変更された新しい詐害行為取消権の内容を,制度趣旨,成立要件,行使方法,効果及び権利行使期間に区分して説明するものである。とはいえ一般的な法律の教科書ではないので,あくまで訴訟遂行のための実務的視点に基づいた解説となっている。 第2編は,詐害行為類型ごとの取消訴訟の実務と題した記述である。本書の特徴が最も現れている部分である。典型的な財産減少行為としての不動産,動産,金銭,債権の譲渡,さらには債務免除行為などを類型ごとに取り扱い,さらには濫用的会社分割から遺産分割等の家族法上の行為まで,現時点で想定される詐害行為類型を網羅的に取り上げた。詐害行為取消権の行使方法にも着目し,現物返還を求めるケース,価額償還請求のケース,そして,取消債権者の直接請求権なども類型的に検討している。これらの諸類型ごとに解

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る