第1部 新しい時代の公用文のルール文章はなるべくくぎる,簡潔な論理的な文章とする,簡潔な標題を付ける,箇条書きを取り入れるといった内容を整理して,わかりやすく伝えるルールも提示されてはいる。ただし,これらわかりやすさ重視の発想は,説明箇所が短く,具体例もなしに提案されたものであり,戦後の公用文作成の現場で重視されてきたとは言いがたい。筆者の前著2)では,全国の一般市民向け公用文にはこういったわかりやすく伝えるルールを実践していない実例(難解な公用文)がたくさんあることを紹介して問題提起を行っている。 2022年1月に「公用文作成の考え方(建議)」が出た。これは,旧要領に代わって提案された新しいルールであり,建議本文に解説がついている(建議本文は巻末資料参照)。本書ではその解説も加えて新要領と呼び,第1部の各章で紹介したい。 新要領では,漢字や送り仮名といった形式面に関するルールが若干緩和され,内容をどのようにわかりやすく伝えるかという点が重視されている。これまで70年も前に出された旧要領が公用文執筆の基本となり,形式面に注意が払われてきた。形式を統一することは重要であり,法令文の漢字表記を真似ることで文章の硬さを維持する機能もある。そういった点は重要である一方,形式面への注目は文章の読みやすさにつながらないという問題も抱えている。 新要領では,「基本的な考え方」を最初に示している。1の「公用文作成の在り方」では,公用文を読み手とのコミュニケーションとして捉え,伝えたいことを一方的に書き連ねるものではないと戒めている。2では「読み手に伝わる公用文作成の条件」とあるように,書いたものを読み手に届ける必要性を指摘している。こういった読み手の存在とその理解を「基本的な考え方」で取り上げているのが大きな特徴である。4新しいルールの概要
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