新しい公用文作成ガイドブック
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11章 わかりやすさのメリット 職員のメリットは,仕事量が減ることにある。わかりにくい文章は職員の仕事量が増えコストがかかる。ワクチン接種の例で言うと,わかりにくい情報提示の場合,「お金はかかるのか」,「会場はどこにあるのか」など聞いてくる人が増えてしまう可能性がある。その結果,電話・窓口対応の時間が増加し,職員は忙殺されてしまう。また,わかりにくい情報提示によって,市民の提出書類にミスが増える。ある自治体が出したお知らせに対して,提出物の20%にミスが見つかったとしたら(実際にあった話だが),このあと膨大な処理コストがかかることは想像に難くない。わかりやすい情報を出していれば,そういった無駄なコストが省ける。 職員各位にこういったコストの感覚を認識してもらうことは重要である。19章で海外の取り組みを紹介するが,ドイツやアメリカではコストカットのためにわかりやすい文書発信をやるという議論がなされている。組織全体で無駄なコストを減らしていくという目標設定とその共有が必要になる。 ただし,コストカットの議論の難しさは2点ある。 1点目は,文章の書き手とその事後処理に追われる職員が同一ではないことである。電話・窓口対応などに忙殺される職員が書き手ではない場合,わかりやすい文章がコストカットにつながることは書き手に理解されにくい。同様に,難解な公用文で市民からクレームが出たときに,そのクレームを受ける人物と書き手は違う人物であり,現場の状況や読み手が何に困っているかがなかなかリアルに伝わらないことがある。 2点目は,ジャンルの問題である。公用文の内容は多岐にわたり,わかりやすくすることでコストが上がってしまうものもある。これもアメリカの例を紹介するが,生活保護打ち切りのお知らせをわかりやすく書き直したところ,異議申し立てが大幅に増えたことをラボフという研究者が報告している。注)クレームを処理するためのコスト増と,正当な申し立てに対応するためのコスト増とを同列に並べることはできないもの53職員のメリット:仕事量が減る(コストカット)

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