終法
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2 相談例の解説この相談例のポイントは、以下のとおりです。まず、年配の方からの終活・遺言・相続に関連する法律相談では、今すぐ対応しなければならない(つまり事件性のある)問題は少なく、むしろ、事件性のない抽象的な相談が多いため、関連する法律知識を説明するだけで事件を受任できるわけではありません。つぎに、高齢の相談者は、なかなか本題に入らず、最初から本心を吐露するわけでもありませんし、最後までそれを隠そうとされることもあります。また、弁護士が相談者を見るように、相談者も弁護士を値踏みしています。したがって、弁護士は、法律相談に来た経緯を丹念に聞き取るなどして、相談者の思惑や相談者が何を求めているのかを的確に察知し、信頼に値する弁護士だと思っていただく工夫が必要です。また、高齢の相談者の話を遮ると不興を買い、延々と話を聞いていると時間が足りなくなります。高齢者を取り巻く環境などについての常識は事前に準備しておき、病気の知識や諺などの会話テクニックを利用して、うまくコミュニケーションを図ってください。それが双方のためでもあります。なお、架空の相談例の背景は、以下のとおりです。相談者のご夫婦は2人の子(長男・次男)をもうけましたが、3年前に夫と死別し、自宅を含めすべての遺産を単独で相続しました。その後一人暮らしを続けていたものの、糖尿病が悪化して糖尿病性腎症となり、毎週3回の透析が必要になりました。両膝が関節症のせいで階段の昇降が辛くなり洗濯物を干すのもひと苦労ですがまだ介護認定は受けていません。これから先、自立して暮らしていけるか不安になってきたが、施設には入りたくない。近くにいる長男一家を自宅に呼び寄せて面倒をみてもらいたいが、嫁とはちょっとした確執があり、先々のことを考えると、自分から長男夫婦に頭を下げてお願いはしたくない。そんな思いを抱えて信用金庫主催の終活セミナーに参加し、個別相談を受けたところ、自宅を長男に相続させるという内容の遺言書を書いてはどうか(遺言信託を利用しないか)とアドバイスされた。なるほど、とは思うけれども、まだまだ生きるつもりだし、遺言なんて縁起が悪い。たとえ遺言を書くとしても、今、自分の財産すべてを子どもに分けることを決めたくはない(子どもの様子を見て決めたい)。踏ん切りがつかないので、市役所の法律相談で弁護士の意見でも聞いてみよう……といったところです。とすれば、相談者が本当に相談したかったのは「自分が負い目を持つことなく長第1章 法律相談の具体例9

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