競業避止
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はしがきi 令和3年6月,経済産業省知的財産政策室が「最新の営業秘密侵害事例から見えてくる『営業秘密』保護のポイント」を公表しているように,不正競争分野に関しては近年様々な動向があり,官公庁から情報発信をする機会が増えているようです。 このような状況が生じているのは,経済界から「終身雇用制度の維持は難しい」旨の指摘がなされていることと無関係ではないでしょう。使用者側からすれば,法規制等による人件費の負担が高まる一方で,人材不足が切実に懸念されています。AIの活用や外国人労働者の雇用拡大も検討されているとはいえ,社会が高度に複雑化する中,競争力の源泉である「優秀な」人材を確保しなければ,激化する競争の中で生き残ることはできないと思われます。 他方で,労働者側から見ても,大卒でも「就職後3年以内離職率」が30%を超えています(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)を公表します」,2020年10月)。当該離職率は,過去30年の中で特に高い水準を示しているものではありませんが,今後極端に低下することが予見できるものでもありません。キャリアアップやハラスメントなど様々な理由はあるかと思いますが,転職市場が閑散とすることはなさそうです。 雇用が流動化すれば,労働者と共にノウハウも移転することとなります。 労働者個人が獲得したノウハウが社会で利用されることを不当に制限しようとすることは,優秀な個人が社会で活躍する場を奪いますし,社会全体の経済活動を停滞させることにもつながりますから,個人の人権を侵害する上に,社会全体の害悪でもあります。 他方で,無秩序に放置していたのでは,手っ取り早く競合他社の営業秘密を入手するために人材を獲得しようとする使用者が登場し,前職の営業秘密を「貢ぎ物」にして自らを競業他社に「高値」で売り込む労働者が登場します。このような不届き者が横行するようになれば,企業も個人も自らの価値はしがき

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