競業避止
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はしがきiiを高めるための努力を惜しむことになりかねません。まさに「正直者が馬鹿を見る」ことになります。 これらの解決を図ろうとする指針が「不正競争」という概念です。 雇用の流動化が一層進むであろう今日の社会情勢を見れば,不正競争防止法を始めとする「競争が『不正』かどうかを判断する法律論」は今後極めて重要なものになってくるはずです。 私は,弁護士になった直後に上場企業の「不正競争」に関する事件に携わる機会があり,その後,中小企業も含む多数の「不正競争」事件に携わるようになりました。 その中で残念に思うのは,「不正競争」に関する事件というと大企業をクライアントに抱える弁護士のみが扱うものであるかのような「空気」が感じられることです。 しかし,「不正競争」という法概念の重要性が前述したような社会情勢に裏付けられているとすれば,企業の規模に関わらず,また,弁護士のみならず企業内においても,適切な法律論が認識されなければならないはずです。 このような問題意識に照らして,本書は,比較的新しい裁判例や官公庁のガイドラインを紹介することを中心とし,複雑な法解釈を論じること等は行っていません。「不正」かどうかという,誤って哲学の世界に入りがちな論点を法科学の立場から理解するためには,それなりに客観的と思われる指針が分かりやすいと思うからです。私自身には法解釈にも政策にも言いたいことは山ほどありますが,本書では,可能な限り私の主観を排除して,裁判例等に基づき分析,解説を施すことを意図しました。 また,「不正競争」に関わる法律論は多岐にわたります。「不正競争」に関して,限られた法律だけに着目していたのでは,事案の本質を見誤りますし,適切な対処をすることができません。「不正競争」に関する書籍の場合,各著者の専門分野に焦点が当たりやすいものですが,本書においては,可能な限り,広く対象を扱うこととし,読者が普段携わっていない分野の論点についても認識できるように気を付けたつもりです。

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