離契
5/66

iはしがき 離婚協議書は,①紛争を解決する,②将来に禍根を残さない,という機能を有しており,離婚問題に苦しむ両当事者にとって極めて重要な法律文書である。離婚協議書の作成は法律上必須ではないが,取り決めておく点は多いため,後日トラブルになることを回避するために作成しておくべきである。 離婚問題においては,親権,養育費,面会交流,財産分与,慰謝料及び年金分割等といった多くの条件を取り決める必要がある。離婚に直面した当事者は,相手方に対する不信感,嫌悪感などが交錯し,合理的な判断や話し合いができないことが多く,協議が難航するケースが多く見受けられる。弁護士が代理人となって相手方(又はその代理人弁護士)と冷静に協議することで,離婚調停に至ることなく協議段階で解決できるケースもある。しかし,多くの事案は一筋縄では行かない。代理人弁護士は,事案に応じた適切なゴールを設定し,相手方を説得するだけなく,依頼者を説得することに尽力しなければならない。相手方と依頼者双方を何とか無事説得できれば,その合意内容を書面にすることで紛争を解決できる。離婚協議書は,これまで紛争状態にあった当事者を解放し,再出発させることができる。 また,離婚協議書は,将来に向かって重要な機能を有する。すなわち,養育費や面会交流等の合意内容は,未成年者が自立するまで重大な影響を及ぼし続ける。したがって,合意内容を検討する場合,その場しのぎではなく,将来のことを想像し,禍根を残さないよう慎重に作成しなければならない。 このように離婚協議書の合意条項は,極めて重要な法律文書であるにも関わらず,体系的な条項例集が存在しないことについて,大きな問題と考えていた。離婚調停についての条項例については書籍があるものの,調停段階で締結する合意内容と協議段階で締結する合意内容には大きな違いがある。すなわち,離婚協議書は裁判所を通さずに作成するため,裁判所特有の制限がなく,より柔軟な合意が可能である。もちろん,法的な拘束力が認められるかという問題はあるものの,当事者の意向を細かい点まで条項に反映できるはしがき

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る