事例でわかる 生前贈与の税務と法務
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250第2章 相続法改正後における贈与事例の法務と税務2 法律上のポイント係者がおらず,社内関係者としては非常に相続税評価が低い配当還元価額で株式を移転することができる。 会社との労使関係も非常に良好であるので,大株主である佐賀満男社長の持株を移転する相手としては好ましい。結果として,換金できない財産である佐賀食品(株)を佐賀満男社長の相続財産から除くことができる効果的な対策である。(2)配当優先による無議決権株式を従業員持株会に譲渡や贈与する 従業員持株会へ佐賀食品(株)の株式を移転する方法としては,贈与という手法もあるが,贈与では不公平感があり従業員に株主としての自覚も生まれないため,会社運営上は1株当たりの資本等の金額での譲渡が望ましい。佐賀食品(株)の配当率は10パーセントであり,取得価額は資本等の金額と同額であるから,通常の市場金利は1パーセントにも満たないことを考えると,従業員にとっては非常に高利回りであるといえよう。佐賀食品(株)が健全である限り,退職時や解約時に元本が戻ってくるのであるから,十分な福利厚生策となろう。 佐賀食品(株)において従業員持株会を発足させるに当たり最も重要なポイントは,退職時の取扱いを含めしっかりとした規約を作ることである。同族会社に適した従業員持株会の組織形態は「民法上の組合」であり,トラブルに備え,自社独自の持株会規約を作っておくことが重要である(例7参照)。 特に株主は従業員個人ではなく持株会であることや,退職時は持株会において持分の払戻しを受けることになり,その金額はいくらであるのか,といった事項は徹底しなければならない。 また,佐賀食品(株)においても,これらの要件を満たした従業員持株会を設立するつもりであるなら,譲渡制限の定めや,議決権制限配当優先株式の発行等について,株主総会での特殊決議や特別決議等を得ておく必要がある。また,仮に満男社長の所有株式の一部を配当優先無議決権株式に転換するのであれば既存の全株主の同意を取り付ける等の内容をクリアしなければならないことにも留意したい。

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