カスハラ
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第1章 カスタマーハラスメントとは2(注2) 直接的なカスハラ事案ではないが,2022年7月4日,緊急停止ボタンを押した利用客に対し,大声で怒鳴るJR東日本従業員の対応を録画した映像がSNSで拡散され,大いに議論を呼んだ(2022年7月7日付産経ニュース「線路に財布落とし非常ボタン……山手線止めた乗客と駅員が口論 ネット上で波紋」など多数)。大声で怒鳴っている部分だけが切り取られ,「酷い企業だ」と批判を浴びる可能性もある。(注2) また他にも,例えば,商品に異物が混入していたので返金してほしい旨の申し出があったケースでは,昔は,企業側の落ち度で混入したのか否かが判然としないのであれば,端的に断ればそれで済んだであろう。しかし,今は,異物が混入した商品の写真がインターネット上にアップされ,炎上してしまうリスクも考慮しなければいけない。 端的にいってしまえば,顧客側が,インターネット,スマホ,SNSという強力な武器を手にしたといえる。 したがって,それに対応する企業も,今までのように「属人的な」,「強引な」対応で済ませることはできなくなってしまったのである。 その結果,企業は不当クレーマーに対しても,「納得」を得るために延々と対応を続けるケースが見受けられる。しかしながら,不当クレーマーに対して「納得」を得ようとすることは,カスハラ対応における最もよくある勘違いである。後述のとおり,不当クレーマーに対しては「対応を打ち切ること」又は「こう着状態を作ること」も選択肢に入れるべきである。イ 不況の影響 次に,長引く不況もカスハラの社会問題化に影響したと考えられる。 長引く不況によって,「お客様至上主義」ともいえる風潮が浸透した。 長引く不況の中で生き残るため,企業は,同業他社との値引き合戦やサービス合戦を続けざるを得なかった。その結果,お客様至上主義ともいえる,顧客を必要以上に尊重する風潮が広く浸透してしまったのである。 本来,健全な社会においては,契約当事者である売主と買主は対等のはずである。

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