カスハラ
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i 数年前から「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉が急激にクローズアップされている。カスハラは企業の生産性低下,さらには従業員の休職や退職の原因ともなり得る。そのため,人口減少に伴う人手不足問題が進む我が国にとって,カスハラは深刻な社会問題となっている。 カスハラが社会問題化していることを受けて,国も本格的に対策に乗り出した。まず,2020年1月に告示された,「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)において,企業におけるカスハラ対策の必要性が言及された。 そしてついに,厚生労働省は,2022年2月25日,「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下「厚労省カスハラマニュアル」という。)を公表した。 ところが,公表された厚労省カスハラマニュアルは,あくまで一般的・総則的な内容にとどまった。これは厚生労働省が手を抜いたわけではなく,一般的・総則的な内容とせざるを得なかったのである。なぜならば,取引内容や企業の方針,事業規模等によって,講ずべきカスハラ対策やカスハラマニュアルの内容は異なり,全ての業界,全ての企業を網羅するマニュアルを策定することは不可能なためである。また,個別具体的なカスハラ対応は,まさに「裁判外交渉」そのものであり,そもそも厚生労働省が具体的な指示をする性質のものではない。したがって,厚労省カスハラマニュアルには,個別具体的なカスハラ対応に関する記載はほとんどない。 以上の理由から,厚労省カスハラマニュアルは,企業にカスハラ対策の必要性を指摘しカスハラ対策の一般論を示すものとしては非常に有益であるが,「これ一冊押さえておけばよい」という内容にはなっていない。そのため,各企業としては,厚労省カスハラマニュアルの内容を押さえておくことは当然として,更に踏み込んで,独自のカスハラ対策を構築していく必要がある。実際に,弊所へのカスハラに関する相談も,厚労省カスハラマニュアルの公は し が き

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