信託を実行する際には、信託をする財産のみについて短期的な視点で考えるのではなく、信託をする財産・信託をしない財産すべてについて、その承継方法・移転時期・納税資金等を検討し、信託をしない財産については遺言書を作成したり生前贈与したりするなど、円滑・円満な相続・事業承継のために必要な対策をしておくことが望ましいと考えます。 例えば、信託財産である株式については、現行法令上、いわゆる事業承継税制を適用することはできません。また、商事信託の場合には、信託行為の効力発生後には原則として変更・解約ができないことがあります。 専門家が信託の設計について相談を受ける際には、「委託者の家族の中で誰が主導して信託を実行しようとしているか」という点にも注意が必要です。特に委託者の推定相続人が相談窓口となっている場合には、それが本当に委託者の希望なのか、委託者の意思を早めに確認するようにしましょう。 また、例えば、認知症対策の民事信託で、信託の目的を「受益者の幸福のため」としつつも、信託期間中に受益者への生活費等の給付が全くなく、受益者が認知症を発症した後の信託監督人や受益者代理人の選任について検討をせず、受託者兼帰属権利者である推定相続人に最大限利益が残るような仕組みを希望している場合(「それで受益者は幸福といえるの? 幸福になるのは受託者じゃないの?」と聞きたくなってしまうような場合)等にも注意が必要です。このような場合、家族構成や財産状況によっては、将来的に他の推定相続人との間でトラブルになる可能性がありますし、税務上の課税関係が不安定になることもありますし、このような信託行為を公正証書で作成しようとしても、内容によっては公証役場で受け付けてもらえないこともあります。811 実行前⑶ 信託の実行前にしておくべき対策がないか⑷ 受益者のための信託となっているか
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