2 平常時─民法の世界から4第1編 倒産法─総論 突然倒産時の話に入ってもイメージしにくいでしょうから,まずは,馴染みのある民法の世界から始めましょう。 民法の世界では,債務者Aが債権者Bから1000万円を借りている,といったように,二者間の話が通常です。 Aが返済期限に約定どおり返済すれば,何の問題もなく債権債務関係は終わります。これでは,特段民法の出番もありませんね。平常時の問題のない時期です。民法の問題となるのは,Aが返済期限に約定どおり返済できない場合です。平常時の危機的時期ということになります。Aが債務不履行となったら,貸金債権者Bはどうするか。皆さんが勉強したところからすれば,貸金返還請求訴訟を提起し,請求認容の確定判決を得,これを債務名義として強制執行する,訴訟には時間がかかるので,その前に財産の仮差押えをして保全をしておく,といったところでしょうか。 ここで,Aは,Bの他にC,Dからも1000万円ずつ借りており,C,Dという債権者がいたとしましょう。債権者が複数存在するという場面です。 Aは,債務不履行となり,責任財産では債務全部の弁済は困難な状況に陥っています。 複数の債権者が存在する場合,民法の世界も建前としては,債権者平等原則が働きますが,実際にはどうでしょうか。勤勉な債権者Bは頑張って債権回収し,他の債権者に先んじて回収ができるかもしれません。ここで,各債権者が行っているのは,個別の権利行使です。平常時は,債権者平等というよりは,いわば早い者勝ちの世界ということになります。1000万債権者B債務者A1000万債権者B1000万債権者C債務者A債権者D1000万
元のページ ../index.html#22