4_倒講
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ぱ頗3 倒産時─破産法の世界へ5⑴ 民法の延長線上⑵ 倒産法の必要性第1講 倒産法─総論 では,Aが多額の負債を抱え,支払を停止した状態,すなわち平常時の危機的時期,さらにいえば究極の危機時期において,すべてを債権者各自の個別の権利行使に委ねてしまってよいでしょうか。債権者は,法律に従った債権回収のみを行うとは限らず,自力執行するかもしれません。また,債務者も,残された財産を取られてしまいたくないと隠匿するかもしれませんし,特定の債権者にだけ弁済をするかもしれません。債権者にとっても,債務者にとっても好ましい状態ではないと思うのではないでしょうか。もちろん,借りた金は返すのが当たり前だ,という感覚もよく分かります。ただ,社会政策的なルールの問題として考えた場合,債権者の個別の権利行使を制限し,債権者平等原則に服させ,債務者の財産の管理処分権を取り上げ,これを裁判所が選任する破産管財人に帰属させ,中立公正な破産管財人が全債権者を代表して,債務者の財産を換価してお金にした上で,債権額に応じて平等に分配するというルールは合理的な考え方だと思います。 このような清算のルールを定めたのが破産法です。破産法は,債権者平等原則を徹底できるよう平常時の民法の世界を修正しているわけです。破産法は民法の世界の最後の姿を定めたもので,民法の延長線上にあるものなのです。何も特殊な異世界ではなく,すぐ隣にある世界なのですね。 改めて倒産法の必要性を確認しておくと,債務者が経済的に破綻した場合に,平常時における債権者の個別の権利行使にすべてを委ねてしまうと,民法の世界における債権者平等原則は絵に描いた餅にすぎず,早い者勝ちの世界で,法に基づかない自力執行が横行しかねませんし,債務者も財産隠匿や偏へん行為(特定の債権者のみへの弁済等の債権者間の平等を害する行為)といった不誠実な行動を取りかねません。そこで,法律という国家権力に裏打ちされた強制的な倒産処理手続により,債権者の個別の権利行使を制限し,債権者平等原則を徹底させ,破産であれば,裁判所が選任する破産管財人が中立公正な立場で,法に基づく権利の調整と公平な分配を行うことにすることが,コストの面でも経済的ですし,国家的な経済社会の維持の面でも必要なのです。

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