iはしがき 私たちは実務家として倒産事件に関わると同時に,法学部や法科大学院(ロースクール)で倒産法の授業や演習を担当しています。倒産法の優れた基本書は既に存在していますが,学生の理解のためには,基礎の基礎から丁寧に解説し,理解を助ける図を用い,実務がイメージできる,実務家の手による「教科書」が必要だという思いが二人の間で一致し,本書を作ることになりました。 本書は読者が倒産法を正しく理解できるよう,徹底的に読者ファーストを貫いています。その特長は3つです。1つ目は図の多用です。概念や制度の理解には図が圧倒的に有用です。本書では他書には見られないほど多くの図を活用しています。2つ目は基礎の基礎から丁寧に説明し,平常時(平時)との比較の視点を取り入れていることです。あまりにも当然のことであるため説明が省略される前提事項や条文が典型的に想定する場面を丁寧に説明し,さらには民法を出発点とした平常時と倒産時の比較,倒産時の基本法たる破産法とその応用の民事再生法の比較の視点を意識しています。本書を前から順に読み進めていけば自ずと倒産法の正しい理解,比較の視点を獲得することができるはずです。3つ目は倒産法の実務の紹介です。倒産法は,研究者による理論構築に加え,倒産実務家の現場での悩み,創意工夫がその発展に寄与してきました。本書が理論と実務の架橋を果たす一翼を少しでも担えたらと思い,実務での倒産法の役割や現れを感じてもらえるよう折に触れて実務を紹介しています。実務がイメージできれば倒産法をより具体的に理解できるでしょう。 本書は,法学部生や法科大学院生が初めて倒産法を学習するだけでなく,司法試験の受験にも十分使える内容となっています。また,司法修習生や若手弁護士,裁判官や書記官が体系的に倒産法を学習するのにも適しています。さらに,金融機関など社会人が倒産実務の運用と根拠を簡潔に確認することもできます。 次頁の「本書の使い方」で本書の構成と使い方を見た上で,第1講から順に読み進め,最後まで通読してもらえると大変嬉しく思います。 最後に,本企画を快くお引き受けいただいた日本加除出版株式会社及び企画段階から打合せに参加し,原稿の最初の読者にもなっていただいた編集部の増田淳子さんに感謝申し上げます。 令和4年8月野 村 剛 司森 智 幸はしがき
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