民釈
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序 章 3ないかという予測と危惧が生じた。1)他方において,現行民訴法は上告制度に重大な変更をもたらし,「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反」は,高等裁判所への上告の理由とされているが(民訴312条3項),最高裁への上告理由からは除外された(民訴312条1項・2項参照)。この事由は,原判決に判例違反がある場合その他の「法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる」場合に,最高裁への上告受理申立て理由として主張(責問)できるにすぎなくなった。そこから,釈明義務違反はどの範囲において上告理由として主張することができるのか,釈明義務違反は上告受理申立て理由にすぎないのか,旧法下の判例は新民訴法下の最高裁への上告事件についてどのような意義を有するのかという重要な問題が生じている。 判例においては,最高裁への上告において釈明義務違反の上告を,憲法違反を理由とする上告として適法としたものはなく,上告受理申立て理由として主張された場合に最高裁がこれを受理し原判決を破棄した重要な判決が稀に報告されているにとどまるが,最近ではこれに関する裁判例の報告は極端に減少している。それでは,人々の社会生活が著しく複雑さを増し,そして毎年多数の法律が制定されている現代社会にあって,裁判所の釈明義務の履行に関して原審である控訴裁判所の実務や第一審裁判所の実務は完璧であり,釈明義務違反は殆ど存在しないのであろうか。特に控訴審においては,現実は全く逆であるように,筆者には思われる。 このような法律の改正がある一方,周知のように,高等裁判所の控訴審実務は,今日,私見によれば憲法および法律に反して,大部分,いわゆる控訴審の「事後審的運営」によって行われ,控訴裁判所で口頭弁論が開かれた控訴事件の80パーセント近い事件において,当事者が訴訟資料の追加提出や証人の再尋問のために期日の続行を求めても,控訴裁判所は,期日の指定を拒否して,第一回口頭弁論期日にすでに口頭弁論を終結している(第一回結審)。この実務においては,控訴裁判所が控訴理由書を見てもっともと感じられる控訴理由であると認めない限り,ほとんどの控訴事件において,当事者が新たな事実主張や証拠提出の機会を求めても,裁判所は,この要求を斥け,事件につき当事者と対話をすることもなく,口頭弁論を直ちに終結し,判決を行う。また,一方において,このような当事者の期1)吉野正三郎「争点整理手続の導入と弁論主義の変容」同・トピークス45頁以下。

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