民釈
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序 章 5とくに控訴審の事後審的運営批判や上告理由,上告受理申立て理由の解釈論も当然必要になる。控訴審は事後審ではない。事後審的運営は実務家によって提唱されたものであり,法律上の根拠を有するものではない。にもかかわらず,この手続によって当事者の不服申立権,事実主張を行う権利や法的見解を述べる権利,証拠申立権が侵害されていることは,法治国家の訴訟手続として看過できない由々しい事態である。 叙述の順序としては,法的審問請求権の具体的形成を長期間にわたって行ってきたドイツ連邦憲法裁判所の判例とドイツ民事訴訟法学の展開を参照しながら,同請求権の具体的内容を検討する。日本も加入し批准している国際人権規約B規約の定める公正手続請求権も同様に検討する。そして,この法的審問請求権および公正手続請求権と釈明制度との関連を考察する。また日本の釈明義務に関する判例の展開の確認は,今日では,上告受理申立てのさい判例違反を上告受理申立て理由として主張するのに必要かつ重要であるので,判例の展開は詳しく取り上げる。本編は,以上のような実務と学説の状況の中にあって,釈明制度の意義を当事者の法的審問請求権の保障および公正手続原則の側から位置づけることから出発して,釈明権・釈明義務についての基本問題の再検討を試みるものである。そのさい,「新民事訴訟法と釈明権をめぐる若干の問題⑴⑵」判時1613号3頁以下,1614号3頁以下(いずれも1997年);原竹裕「裁判官の法的観点の指摘と心証の開示」争点〔3版〕188頁;阿多麻子「法的観点指摘義務」判タ1004号(1999年)26頁以下;本間義信「釈明権」佐々木追悼164頁以下;武藤春光「民事訴訟における訴訟指揮」加藤編・民事訴訟審理25頁以下;石田博秀「新民事訴訟法における釈明権について」民訴雑誌46号(2000年)235頁以下;同「新民事訴訟法における釈明権行使」愛媛法学27巻1号(2000年)113頁以下;同「釈明」法教242号(2000年)19頁以下;同「釈明権行使の限界について」静岡大学法政研究9巻2号(2004年)54頁以下;同「釈明の機能」松本古稀309頁以下;園田賢治「釈明義務違反による破棄差戻しについての一考察」九大法学81号(2000年)337頁以下;同「当事者権の保障と釈明権」民訴雑誌61号(2015年)158頁以下;同「法的観点指摘義務の類型化についての一試論」徳田古稀199頁以下;加藤新太郎「民事訴訟における釈明」同編・民事訴訟審理227頁以下;同「釈明」大江ほか編・手続裁量123頁以下;同「釈明の構造と実務」青山古稀103頁以下;納谷廣美「法的観点指摘義務」石川古稀(上)575頁以下;八木洋一「釈明権の行使に関する最高裁判所の裁判例について」民訴雑誌56号(2010年)80頁以下;大竹たかし「控訴審における釈明権の行使」民訴雑誌62号(2016年)53頁以下;高田昌宏「審理の実体面における訴訟指揮とその法理」民訴雑誌57号(2011年)109頁以下;同「訴訟審理の実体面における裁判所の役割について」栂・遠藤古稀299頁以下;瀬木比呂志「これからの民事訴訟と手続保障論の新たな展開,釈明義務及び法的観点指摘義務」栂・遠藤古稀357頁以下;濱崎録「法的観点指摘義務と釈明義務の関係について」熊本法学130号(2014年)160頁以下;林道晴「抜本的な紛争解決と釈明」伊藤古稀509頁以下などがある。また,立法提案として,三木浩一╱山本和彦編・民事訴訟法の改正課題(ジュリ増刊・2012年)73頁~86頁がある。

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