6 第1編 民事訴訟における裁判官の釈明・指摘義務従来の判例とくに最高裁判例の事案では,控訴裁判所が第一審裁判所と異なる証拠評価,第一審裁判所とは異なる法的観点を裁判の基礎にし,または第一審裁判所と異なる事件の事実的評価,法的評価により第一審判決を取り消すけれども,控訴裁判所がこの点を事前に当事者に指摘し反論の機会(および裁判所の見解に対応した申立て,事実主張等を行う機会)を付与していない事案が多数見られ,また中心的な争点として審理が行われたのとは異なる争点についての判断によって裁判の結論が出されているが,裁判所がそのことを裁判前に当事者に指摘し,この決定的な争点についての主張や立証の機会を十分に与えないで,これを裁判の基礎にしている事案も見られる。これらの事案では,実際には,不意打ちの裁判を避けるため,裁判所が裁判の前に裁判の基礎にしようとする法的観点や事実的観点を当事者に指摘し反論の機会を与えるべき義務が問題になっていることが明らかになるであろう。したがって,釈明義務違反を理由に原判決を破棄した上告審判決は,法的審問請求権の侵害を理由に掲げていないけれども,原審の法的審問請求権の侵害に対して当事者を救済している判決であることが多いことが明らかになるであろう。 さらに,控訴裁判所による第一審手続の是正が重要なところで,これが控訴審の事後審的運営のもとで殆ど行われないことに鑑みて,事後審的運営の違法性についても詳論する。また,上告受理申立て制度のもと,釈明義務違反による原判決破棄の裁判例もごくわずかしか見られないこと,明白に当事者の法的審問請求権を侵害している控訴審判決が上告不受理決定を受け救済されずに放置されるとともに,最高裁が原判決の法令の解釈適用の誤りを認定しながら同時に原裁判所の釈明義務違反をも理由に原判決を破棄している裁判例もみられる。それゆえ,上告および上告受理申立てとの関係での釈明義務違反も考察の対象にされる。
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