第1節 釈明権の意義1 民訴法149条の規範目的〔3〕第1章 釈明権・釈明義務と当事者の法的審問請求権 7 民訴法149条1項は,「裁判長は,口頭弁論の期日又は期日外において,訴訟関係を明瞭にするため,事実上又は法律上の事項に関し,当事者に対して問を発し,又は立証を促すことができる」と規定する。この裁判所の権能は釈明権と呼ばれている。1) これは,当事者の申立て,陳述に不明瞭または矛盾,あるいは不正確または不十分な点があるなどの場合に,訴訟関係を明瞭にするために事実上および法律上の事項について,裁判所が当事者に質問または指摘をしまた1)ドイツでは,この釈明権ないし釈明義務の原語であるAufklärungsrechtないしAufklärungspflichtという用語は密かに職権探知主義を導入するものと誤解されるおそれがあり,ミスリーデイングであるとして,質問=指摘義務の用語を用いるべきであるという主張がなされてきた。Baur, Richterliche Hinweispflicht und Untersuchungsgrundsatz, in: Rechtsschutz im Sozialrecht, Beiträge zum ersten Jahrzehnt der Rechtsprechung des Bundessozialgerichts,1965, S.35 Fn.2; Bettermann, Hundert Jahre Zivilprozessordnung- Der Schicksal der liberalen Kodifikation,ZZP 91(1978), 365, 389 f.; Kuchinke, Die vorbereitende richterliche Aufklärungspflicht(Hinweispflicht), JuS, 1967, 295, 296; Grunsky, Die Grundlagen des Verfahrensrechts, 2. Aufl.,1974, S.178 Fn.28; Stürner, Die richterliche Aufklärung, S.16; Stein/Jonas/Leipold, 21. Aufl., Bd.2, 1994, §139 Rn.5; Rosenberg/Schwab/Gottwald, §77 Rn.18参照。 ドイツでは2002年民訴法改正によって,139条の見出しはmaterielle Prozessleitung(実体的訴訟指揮)の用語が用いられている。条文の見出しの用語は代わったけれども,実体的訴訟指揮が講学上長い間用いられてきたことにつき,Schumann, Die absolute Pflicht zum richterlichen Hinweis(§139 Abs. 2 ZPO), Festschrift für Dieter Leipold, 2009, S.175 ff.参照。日本では,Aufklärungsrechtは釈明権と訳されたが,裁判所が当事者に釈明を求めるものとして必ずしも適切な用語ではないし(「釈明を促す権能」というべきだというのは,瀬木270頁),後述のように,裁判所は一定の場合には当事者に一定の事項の指摘をしなければならないので,釈明という用語は全体を示すにはミスリーディングである。本書では,釈明という用語を維持しつつも,指摘義務や質問義務の用語を併せて用いる。⑴ 事案解明への裁判所の協力,実体的訴訟指揮第1章 釈明権・釈明義務と当事者の法的審問請求権
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