民釈
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3 裁判所の釈明権の行使と当事者の法的審問請求権〔13〕第1章 釈明権・釈明義務と当事者の法的審問請求権 1517)兼子・体系266頁;三ケ月・全集162頁;林屋224頁;条解民訴〔第2版〕917頁[新堂/上原];菊井╱村松・新コンメⅢ〔第2版〕299頁;高橋・重点講義〔上〕442頁;小島391頁;中野ほか編・講義229頁[鈴木]。調する見解も主張されている。17)これによれば,釈明権は弁論主義の形式的適用によって生じうる不都合または欠陥の是正を目的とし,その意味で釈明権・釈明義務の目的は弁論主義の補充にあるという。たしかに釈明権・釈明義務は,弁論主義の形式的な適用によって生じうる不都合を緩和する。しかし,釈明権・釈明義務が弁論主義との関係でのみ機能し,その目的は弁論主義の補充であるという説明には疑問がある。なぜなら,当事者は職権探知主義の訴訟においても訴訟の客体としてではなく,訴訟主体として扱われなければならず,訴訟の主体として裁判に対して影響を及ぼす可能性を承認されなければならない。それゆえ,当事者がその法的審問請求権を充分に行使できるよう,裁判所の釈明義務も必要である。したがって,裁判所の釈明義務は,弁論主義訴訟のみならず,職権探知主義訴訟においても妥当しなければならない。また,法律上の事項も裁判所の釈明権・釈明義務の対象となるのであるが,法律問題はもともと弁論主義の対象ではなく,当事者の主張と関係なく裁判所が判断しなければならないことも看過されてはならない。したがって,弁論主義の欠陥を補うことに釈明権・釈明義務の目的があるとする見解に従うことはできず,その法的な基礎は別のところに求められなければならない(詳しくは→〔65〕以下)。 法的審問請求権は,裁判によって影響を受ける者がその裁判の前に裁判所がその裁判の基礎にする事実上および法律上の事項につき適時に意見を表明し,裁判所がこれを了知し,裁判において考慮することを求めることを内容とする権利であり,後述のように(→〔33〕),日本においても憲法上の保障と解される。この権利は,訴訟の相手方当事者にも平等に保障されなければならない(武器対等の原則)。関係人には事実関係および法律状態について,とくに裁判所の表示および相手方の陳述,さらに証拠調べの結果その他の裁判所が利用しようと意図する認識(たとえば取り寄せられた記録)について意見を表明する可能性が与えられなければならない。こ⑴ 法的審問請求権

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