〔53〕〔54〕第4章 要 約 373 以上の考察の結論を要約しておこう。 まず,裁判所の訴訟指揮権の1つである口頭弁論の終結後は,当事者は原則として攻撃防御方法を提出することができなくなる。しかし,この原則は口頭弁論の終結後は当事者に全く攻撃防御方法の提出を許さないというものでなく,例外がある。それは弁論の再開である。弁論の終結によって以後の訴訟資料の提出や証拠申出は時機に後れた攻撃防御方法として却下されることが多くなるが,弁論の再開は,判例・通説がいうように全面的に裁判所の自由裁量に属するものではない。弁論の再開が必要な場合に,当事者の申立てがなければ再開ができないというのは不都合であるので,当事者には申立権が付与されていないのであり,それゆえ,裁判所は弁論を再開するかどうかの専権的裁量権を有するものではない。通説は,評議終了前の裁判官の死亡や転任の場合にのみ弁論の再開を必要的とするが,裁判所の釈明義務の違反や法的審問請求権の侵害がある場合,さらに再審事由(可罰行為の再審事由においては有罪確定判決等の要件も必要)に当たる事由がある場合にも,弁論の再開をしないで判決をすると重大な手続瑕疵の付着した判決になることは明らかであるので,裁判所には弁論を再開する義務があると解すべきである。これは自由裁量のなかでの例外というようなものではなく,ことの重大性に鑑みて,弁論の再開は裁判所の義務である。 裁判所の弁論再開義務が生じない場合にも,当事者が口頭弁論終結後に提出する攻撃防御方法が判決に影響を及ぼしうる新たな攻撃防御方法であり,時機に後れたことにつき当事者に故意または重大な過失がなく,訴訟の完結を著しく遅延させない場合には,裁判所は実体的真実への接近と迅速な裁判の要請を考量して,事案に応じて裁判所の裁量によって弁論を再開することができる(義務的裁量)。 当事者は弁論再開の申立権を有さず,裁判所の職権発動を促すことができるに過ぎないが,当事者が裁判所の弁論再開義務を根拠づける事由を示第4章 要 約
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