民釈
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2 はしがき者が事前に意見を述べ機会がなかった事項(法律上の事項を含む)を裁判の基礎とすることができないという手続保障の根幹をなす権利である。裁判所の法的観点指摘義務も,この当事者の法的審問請求権を具体化するという面がある。それゆえ,何をもって法的審問請求権の侵害というかが明確にされなければならない。第1編では,法的審問請求権の内容を多数の連邦憲法裁判所の判例によって発展させてきたドイツ法の捉え方を詳しく検討した。日本では当事者の手続権(手続保障)として「弁論権」が観念されているが,この概念では捉えられない重要な内容が法的審問請求権には含まれている。また今日,公正手続請求権も,裁判所が手続において保護すべき当事者の権利であり,そこから裁判官の矛盾挙動の禁止,信頼保護の原則や当事者に対する配慮義務などが生じ,配慮義務の内容として裁判官の釈明義務がある。法的審問請求権や公正手続請求権の侵害と認められたドイツ連邦憲法裁判所や連邦通常裁判所の判例を詳しく紹介したのは,そのためである。 当事者が法的審問請求権を有効に行使できるよう,裁判所の釈明義務の範囲はいかにあるべきかが重要な民訴法学の課題の1つであり,このことと関連して,控訴審における釈明=指摘義務も重要な問題である。控訴審では,第一回口頭弁論期日においてすでに手続を終結するという第一回結審の実務が多くの控訴裁判所において行われているが,そこでは,控訴裁判所が第一審裁判所の釈明義務違反や手続過誤を審査することが十分行われず,控訴裁判所自身による釈明義務の履行も殆ど行われず,したがって当事者の法的審問請求権を侵害する事態をももたらしているので,この控訴審の事後審的運営と第一回結審の実務の問題性も詳しく検討する。上告審については法的審問請求権の侵害が,したがって一定範囲において控訴裁判所の釈明義務違反が上告理由になるかどうかという問題が検討される。 本書第2編は,裁判所が口頭弁論を終結した後に当事者が裁判所に提出する書面によって釈明義務違反や法的審問請求権の侵害,再審事由の存在等を主張して弁論の再開を求める場合,裁判所は弁論再開義務を負うこと(裁判所の弁論再開義務),その他,当事者が裁判上重要な攻撃防御方法を主張して弁論の再開を求める場合には,裁判所は義務的な裁量(考慮要因を十分に考量したうえでの裁量判断)により口頭弁論を再開するかどうかを判断すべきこと,弁論の再開は裁判所の自由裁量に属する事項ではないこ

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