2令和3(2021)年末に日本に在留するフィリピン人の数は、在留外国人総数276万635人のうち、中国、ベトナム、韓国に次いで4番目に多い27万6,615人でした。年齢層と性別をもとに数値を見るならば、青年から壮年期にあたる年齢層では、技能実習制度、特定活動や技術・人文知識・国際業務等の在留資格で働く男女が、ほぼ同数日本で活動しているのに対して、壮年から中年期以降の年齢層では圧倒的に女性が多く、日本人の配偶者、永住者や永住者の配偶者等の在留資格を有している人たちが多くなります(後掲【表1】参照)。ここでは、前者をニュー・カマー、後者をオールド・カマーと呼びます。オールド・カマーのフィリピン人には日本社会に長期間在留してきた人たちが多く、日本人との婚姻・離婚や相続問題が発生するなど、親族関係は複雑になってきています。今後は、ニュー・カマーのフィリピン人男女が、日本で婚姻し定着度を高め、日本生まれのフィリピン人子女も増加してくることになるでしょう。本書では、主として日本にいるフィリピン人が関わる親族関係に適用される法律や解決方法を、さまざまな場面ごとに説明しますが、まず、フィリピン人と日本との関係や、フィリピン人が外国に移住して労働する社会背景を整理してみましょう。⑴ フィリピンの地理と宗教フィリピンは、ASEAN諸国の中で唯一キリスト教徒が多数を占める国で、 7,600余りの島から成る島しょ国(日本の島の数は6,800余り)です。16世紀にスペイン植民地として統治されキリスト教の影響を強く受け、現在でも国民の9割はキリスト教徒でその大多数がローマ・カトリックの信者です。これに対して南部のミンダナオ島及びその近隣の諸島では14世紀からアラブ人ムスリムが来訪しムスリム王国があったため、フィリピン人の5%がムスリムです。⑵ 日本とフィリピンとの関係日本とフィリピンとの関係は、16世紀に豊臣秀吉がスペイン領フィリピンの総督と交流し、マニラに日本人町を置いたことに始まるとされていますが、日本の鎖国政策により断交されました。これに対して、明治時代には、当時アメリカが統治していたフィリピンへ労働者として数万人の日本人が渡り、日本人同士又は日本人男性とフィリピン人女性とが結婚し生活していたとされます。1│ はじめに
元のページ ../index.html#16