フ家事
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第1 婚約・婚姻・再婚29法的にどのような意味をもつのか、という点についてはあまり議論はされていません。ただし、「婚約の一方当事者が婚姻の約束を破棄することが、他方に対する不法行為になるのか」、という法的な問題点があります。そして、この点に関するフィリピン民法19条の解釈としては、原則として単に一方当事者の破棄だけでは賠償責任は生じず、婚約の破棄とは独立した行為が必要とされています。当初、現行のフィリピン民法の草案の段階では、婚約の破棄それ自体で賠償責任を認める規定が予定されていましたが、現行のフィリピン民法では意図的に削除されたという経緯もあります(Ermar T. Rabuya, the law on persons and family relations, 3rd ed., Rex Book Store, 2017, p 73.)。上記の「婚約破棄と独立した行為」としては、婚姻の意思を欺罔して当事者間で性交渉等を行っていたなどの、犯罪的又は反道徳的な誘惑や行為があったという場合や、破棄した当事者による権利の濫用が認められるような場合には、精神的損害賠償(moral damage, この英語は他の国では懲罰的損害賠償と訳される場合がありますが、比民2217条においては、これは精神損害賠償をいう旨が規定されています。)及び実損の賠償を認めています(Ronaldo A. Suarez, Torts and damages, 3rd ed., Rex Book Store, 2019, p 210-211.)。つまり、婚約破棄の原因となった行為について、不法不当な行為や反道徳的な行為があることが必要となります。この相談では、相談者と相手の日本人男性の婚約が法的に有効であることを前提に、婚約破棄についての慰謝料について検討しました。しかしながら、法律事務及び代理権限があり事件の受任も視野に入れる弁護士が相談を受ける場合には、まず、同居の状況や他の客観的事情から相談者と男性との間に将来婚姻する合意が十分認められるか(訴訟等の手続段階では婚約の成立を主張立証できるか)という点に留意して、具体的な婚約に至る経緯や別居前の事情を聴取する必要があります。婚約の成立及び効力(並びに婚約の不当破棄)についての準拠法(どの国の法が日本で適用されるか)については、種々の見解がありますが、いずれにせよ両当事者の本国法が関連してきます。そして、婚約の不当破棄に関しては、フィリピン法では、既に述べたように、婚約が法的に成立したかというよりも、将来の結婚の約束があるか、これがどのような行為で破棄されたかが問題ですので、この点を確認する必要もありま4│ 相談に対する回答に際して

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