学労
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5 本書の意義と弁護士が教員のために果たすべき役割言うまでもなく、ワークルールは労働者を守るためのルールです。7人経験者が少なく、離職率も低いため、教員の労働問題を他の職種と比較分析することが難しく、「教員の仕事が他の仕事と比べてどのような点で特殊なのか」はほとんど実証されていません。第三に、日本における教員の労働問題の議論では、教育の成果の視点からの問題意識はほとんど示されていない点です。アメリカでは教員のワークルールを議論する上で、教員の仕事の成果やパフォーマンスを計量的に分析し、労務管理や賃金体系に反映させる取組みがなされています(代表的な手法として、教員の仕事が生徒の学力に与える影響を付加価値と捉えて計量的に測定し、賃金に反映するValue-added Modeling(付加価値理論)が実際に導入されています。)。しかし、日本では教育の成果の視点は教員の労働問題の議論で必ずしも重視されていません。例えば、教員の労働問題を議論する上で部活動の外部委託は重要なテーマになっていますが、学校で行われる部活動が子どもたちの能力に与える効果と、週に何時間も費やしている学校での英語教育の効果のどちらを優先すべきか、という視点はほとんど議論に出てきません。日本の教員のワークルールに関する研究はこのような問題点を抱えた状況で行われているため、科学的な厳密性を欠いた論理に基づいて議論をせざるを得ない状況にあります。そのため、労働者の労働実態を反映したルールであることが望ましいといえます。しかし、例えば、仮眠時間を労働時間として評価する判例のように、科学的に労働実態を観察すれば疑問を抱くワークルールも存在します。教員のワークルールを議論する際も、教員の労働実態を科学的に観察した上で厳密な論理を示していく必要があると考えられます。序章 弁護士として教員の働き方を考える

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