学労
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194ての事象を法律で解決しようとする悪い癖、あるいは法律によってこそ妥当な解決を導けるという思い込みがあるのですが、法律は万能ではないのです。おそらく、学校現場で教育に携わっている教員の方々は、法律とは別の物差しで、学校で起きるトラブルに対応されているのだと思います。本書の共編者である神内聡弁護士は、「弁護士は演繹的に考え、教員は帰納的に考える」という比喩を用いて弁護士と教員の思考の違いを説明しています。法律というルールに当てはめるのではなく、多くの事例の積み重ねから得られた経験に基づいてトラブルを解決しているということなのでしょう。用いる物差しが異なる以上、事案によっては、法律家の考える正解と、教員の考える正解が異なることもあります。私は、法律と教育は本質的に相いれないものではないと考えていますが、実際に学校からの相談を受けていると、両者の間には距離があるように感じられます。近年、学校現場においてもコンプライアンスが重視されるようになり、学校の「法化現象」という指摘がされるようになりました(坂田仰「価値観の多様化と学校教育の法化現象」スクール・コンプライアンス研究1号6-13頁)。こうした現象は、見方によっては「法律の方から教育に近づいている」と言うこともできそうです。もちろん、学校といえども治外法権ではないですし、学校教育には公費が投じられていますから、法律に基づく教育が実践されるべきことは言うまでもありません。また、体罰などの違法行為があれば、是正されるべきことは当然です。この意味では、教育実務に携わる教職員も、法律について最低限の知識を身に付ける必要があります。一方で、教育の素人である法律家が、法律を唯一の物差しとして学校現場を規律しようとしているのだとしたら、強い違和感を抱きます。あ と が き

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