事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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1 遺言執行者の地位・権限・使命と責任  遺言執行者の地位と役割について、相続法改正前の民法1015条には、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」という規定がありました。逐条解説などにおいては、その趣旨は、遺言執行者の行為の効果が相続人に帰属するという意味であるという趣旨の説明がなされてはおりましたが、相続人の代理人という文言が強調されて、「代理人は本人の利益を害し得ない」という考え方と結び付き、誤解を生ずることがしばしばありました。しかし、最高裁判例においては、「遺言執行者の任務は、遺言者の真実の意思を実現するにあるから、民法1015条が、遺言執行者は相続人の代理人とみなす旨規定しているからといつて、必ずしも相続人の利益のためにのみ行為すべき責務を負うものとは解されない。」(最判昭和30年5月10日民集9巻6号657頁)と判示されていた点に鑑みれば、相続人の代理人という表現は、遺言執行者の地位や役割を表現するには適切ではないといえます。 そこで、改正相続法においては、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」と規定され、かつ、民法1012条においても、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と改正されました。 上記改正の趣旨に鑑みれば、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため=換言すれば、遺言者の意思を実現するために、遺言執行者であることを示してした行為については、相続人に対して直接にその効力を生ずる」こととなりますので、遺言執行者は、遺言の内容を実現すべき使命と責任を負う立場にあるといえます。序章 履行が困難な遺言執行 1履行が困難な遺言執行序章

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