事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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2 序章 履行が困難な遺言執行 したがって、遺言執行者の第一次的な使命は、遺言者の意思を探求して、その意思の実現に尽力すべきものといえます。前掲最判においても、「しかし意思表示の内容は当事者の真意を合理的に探究し、できるかぎり適法有効なものとして解釈すべきを本旨とし、遺言についてもこれと異なる解釈をとるべき理由は認められない。」とされています(同趣旨の最判として、最判昭和58年3月18日判タ496号80頁、最判平成5年1月19日民集47巻1号1頁、最判平成17年7月22日判タ1189号173頁など多数)。 そうすると、遺言執行者としては、自らの拠って立つ遺言が意思能力のある状態で作成された有効な遺言であることを確認する必要はありますが、それが確認された以上は、個々の遺言文言については、できる限り有効な条項として解釈すべきであるといえます。 ただし、「原審は、前記1⑸のように本件遺言書作成当時の事情を判示し、これを遺言の意思解釈の根拠としているが、以上に説示したように遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈し得る本件においては、遺言書に表われていない前記1⑸のような事情をもって、遺言の意思解釈の根拠とすることは許されないといわなければならない」(最三小判平成13年3月13日判タ1059号64頁)と判示されており、まずは遺言文言自体の文理解釈を優先して解釈すべきといえます。 遺言執行者は、遺言文言の解釈が問題となる場合には、上記の最高裁判例を肝に銘じて、遺言者の真意を探求すべき使命と責任を有すると考えます。2 遺言執行が困難な事例の代表的なもの  まず、遺言無効主張がなされる場合です。自筆証書遺言であれ公正証書遺言であれ、遺言が有効であるためには、遺言書作成時点で遺言者が遺言能力=意思能力を有することが必要不可欠ですが、認知症患者700万人時代の到来を目前に控えて、既に認知症診断を受けた人が遺言書を作成することもしばしばあり、認知症診断=遺言無能力と考えて、軽々に遺言無効主張がなされることも結構あります。しかし、法律実務家はほとんどの場合認知症専門家ではありませんし、精神科医でもありませんので、意思能力や遺言能力の有無を判断し得る立場にもありません。しかるに、遺言執行者にとっては、

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