事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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序章 履行が困難な遺言執行 3その権限や地位は遺言が有効であることに立脚していますので、無視して遺言執行するわけにはいきません。後日、遺言無効判決が確定した場合には、執行行為を全部覆さねばならないからです。もっとも、この問題については、本書でも若干取り上げていますが、詳しくは、藤井伸介ほか『ストーリーと裁判例から知る 遺言無効主張の相談を受けたときの留意点』(日本加除出版、2020)をご参照ください。 次に、遺言執行を困難とさせる代表的な事例は、改正相続法施行以前に開始した相続に関する遺言に対して、遺留分減殺請求権が行使された場合です。これについては、本書において取り上げておりますが、その問題点を解消すべく、相続法改正の議論の中で、物権的効力を有する遺留分減殺請求権を廃止し、金銭債権としての遺留分侵害額請求権の制度が採用されましたので、法理論としての問題点は解消されました。ただ、今後においても、改正相続法施行前(令和元年6月30日以前)に相続が開始した事案について遺言執行せねばならない場合もあり得ますので、法的問題点を理解しておく必要があります。 さらに、遺言書に記載された遺言文言について、一義的に解釈することが困難で、いくつかの解釈があり得るものの、どのような解釈をもって解決すべきか、利害関係人間に合意が得られない場合も履行困難な遺言執行といえますが、このような事案について、序章で詳細に説明するのは適切ではないので、省略します。 なお、遺言の解釈が問題となる事案ともいえますが、遺言文言自体で執行が困難といえる場合もあります。代表的な遺言は、相続人廃除の遺言です。遺留分権利者である相続人の相続権を奪ってしまうわけですが、遺言に盛り込めば直ちに相続人廃除の効力が発生するというものではなく、遺言執行者において相続人廃除の申立てをして、廃除事由を主張立証し、審判により廃除が確定されなければならないので、特に生前の遺言者と面識のない遺言執行者にとっては、極めて執行が困難な事案となります。

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