事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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Column 1 遺言書作成後の予期しない「逆相続」 子どものいない長男夫婦が認知症の父親と父親名義の不動産において同居していたが、その長男が交通事故で死亡したため、妻と認知症の父親が相続人資格者となった。 父親は認知症を発症する前に一切の遺産を長男に相続させるという趣旨の遺言書を作成していたが、長男死亡時点で、既に長男が死亡したことも理解できない状態だった。 長男名義の預貯金については、遺産分割協議もできない状態だったので、死亡届をしないまま、長男の妻が生活費に充当しつつ父親の介護をしていたが、数年後父親が死亡した。 父親の相続人資格者が長男の妻に報いてくれればよいが、そうでないときは、長男の妻が特別寄与料の申立てをしても、賄い切れるものではない。しかし、他に有効な手立てもない。 振り返れば、遺言書作成の時点に遡って、「逆相続もあり得る」ことを考慮して、予備的遺言として長男の妻に遺贈しておくべきだったが、それをいってみても、本件において長男の妻に報いることは、極めて困難なので、法律家としては、心苦しい事案である。34 第1章 遺言の履行が困難となる場合の代表的な事例

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