【事案4】 推定相続人廃除の遺言 37由に該当する具体的事実を明らかにできない事態も想定されます。遺言内容を実現すべき遺言執行者としては、廃除の意思表示が遺言に記されている以上、その内容を実現すべく、可能な限り廃除事由に該当する具体的な事実の有無を調査し、その存在を家庭裁判所に立証していくことが求められますが、被相続人が亡くなった後の調査にはおのずから限界がありますので、遺言によって推定相続人の廃除を求めるのであれば、被相続人自身が遺言で遺言執行者を選任しておき、当該遺言執行者とともに、廃除事由に該当する具体的な事実とこれを裏付ける証拠資料を詳細に検討し、遺言執行者に引き継いでおく必要があります。それゆえ、このような場合には事情をよく知る弁護士を遺言執行者に選任するか、そうでない場合でも、弁護士を交えて検討しておくことが望ましいといえるでしょう。3 遺言による推定相続人の廃除が認められたケース ⑴ 設問の事例は、廃除請求された推定相続人(被廃除請求者)のギャンブルによる借金が問題とされておりますので、廃除事由としては「相続人の著しい非行」が考えられます。この点、神戸家裁伊丹支部平成20年10月17日審判(家月61巻4号108頁)は「推定相続人の廃除は、相続的協同関係が破壊され、又は破壊される可能性がある場合に、そのことを理由に遺留分権を有する推定相続人の相続権を奪う制度であるから、民法892条所定の廃除事由は、客観的かつ社会通念に照らし、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものでなければならないと解すべきである」とした上で、被相続人の息子である被廃除請求者は、高校卒業後、予備校に通っていた頃から遊興に金銭を費やすようになり、進学しないまま就職した後も同様で、競馬、パチンコや車の購入、女性との交際費等で借財を重ね、被相続人に度々返済させるなど、いわゆる尻拭いを長年にわたってさせており、さらに被廃除請求者から返済を受けられなかった被相続人の出費の合計が2000万円を超えていたことが認定されています。その他にも、被廃除請求者の債権者にはいわゆるヤミ金もおり、被廃除請求者が殴られて帰宅したことや関係者が被相続人宅を見張ったり押し掛けたことがあり、近所にも聞こえるような大声で罵倒し警察を呼ぶ事態も生
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