事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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ウ 乙が甲に無断でその凍結精子を用いて丙を懐胎、出産した場合であっても、甲丙間の親子関係は肯定されると解されますので、丙は甲の子として遺言に従って甲の遺産を取得できます。1 体外受精と遺言について 体外受精は、女性の卵巣から卵子を体外に取り出して、男性の精子と受精させ、数日の培養後、細胞分裂が始まれば女性の体内に戻す不妊治療の一つであり、受精を体外で行う点で、採取した精液をカテーテルにより子宮に直接注入する人工授精と区別されます。体外受精にせよ人工授精にせよ、これらの方法による懐胎、出産は、民法制定当時には全く予想されていなかったものであり、しかも科学技術の進歩とあいまって、その内容は日々進化しているといっても過言ではありません。それゆえ、どのような場合に親子関係を認め、どのような場合にこれを否定するのか、立法による手当てが望まれるところですが、親子関係の在り方にも関わるデリケートな問題を含んでいるためか、遅々として進んでいないのが現状です。その一方で、いわゆる少子化対策の一環として、人工授精や体外受精などの不妊治療についても令和4年4月から健康保険が適用されるようになり、今後は体外受精による懐胎、出産の件数が増加していくことが想定されます。そこで、体外受精により懐胎するに至った胎児が日本の遺言に関する法制度に照らして、どのように扱われるのかについて検討していきます。す。設問2 設問2  甲の死亡後、乙が丙の出産前に中絶手術をした場合、乙は甲 甲の死亡後、乙が丙の出産前に中絶手術をした場合、乙は甲 甲の死亡後、乙が丙の出産前に中絶手術をした場合、乙は甲 甲の死亡後、乙が丙の出産前に中絶手術をした場合、乙は甲の遺産を取得できるか。 乙が堕胎により刑に処せられた場合には、民法965条により準用される同法891条1号により乙は受遺者たる資格を失いますが、刑に処せられない限り相続権は失いません。回答2 70 第3章 民法における事情変更への対処のための規定(執行を困難又は不能にする規定)

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