事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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2 設問2について  本事例において、次女は父親の遺言を当初の保管場所である机の引き出しから取り出して発見されにくい場所(戸棚の奥)に隠しています。これが隠匿に該当するなら、次女に相続欠格事由があることとなります(民法891条5号)。 しかし、次女が遺言書を戸棚の奥に隠したのは、父親と同居している長男が遺言書を破棄する危険があると考えたがゆえに、長男の知らない場所に一時的に保管しただけです。また長女も次女から戸棚の奥に隠したという話を聞いているわけですから、次女には、他の相続人らに対してその発見を妨げる意思がないことは明らかです。 したがって次女が遺言書を戸棚の奥に隠した行為は、民法891条5号の隠匿には該当しません。3 設問3について ⑴ 本事例において、長男が遺言書を破棄・隠匿したのであれば長男には相続欠格事由があることとなります(民法891条5号)。他方で父親が遺言書を故意に破棄したのであれば父親が遺言を撤回したこととなります(民法1024条)。結論は大きく異なりますが、そもそも遺言書が破棄・隠匿されたのか、誰が破棄・隠匿したか、直接的証拠は何もありません。このような場合、裁判所はどのように判断するのでしょうか。 この点、参考となる裁判例があります(長野地判平成29年3月15日公刊物未登載)。【事案25】 遺言者による遺言書又は遺贈の目的物の破棄──民法1024条 171⑵ 事案は以下のとおりです。・夫Aが遺言書を記載・妻Bと子Dが夫Aと同居(妻Bと夫Aの関係は悪く、家庭内別居のような状・子CはA、B夫婦の近くに居住し月1回程度の頻度で立ち寄っていた・子Eは夫Aの養子況)

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