事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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【事案25】 遺言者による遺言書又は遺贈の目的物の破棄──民法1024条 173Bが遺言書を破棄又は隠匿したものと判断しました。 本事例においても、長男は遺言書の存在を知っており、かつそのことを良く思っていなかったという事情があるので、長男には遺言書を破棄・隠匿する動機があり、他方の長女・次女や父親にはそのような動機はありません。 他方、次女が遺言書を戸棚の奥に隠した以後、長女も次女も実家に立ち寄る機会が一切なかったわけですから、残る可能性は亡き父親が遺言書を破棄したか、長男が遺言書を破棄・隠匿したとしか考えられません。 父親が足が悪くて一人で戸棚を探索することは現実的に困難であった等の事情があれば、長男が遺言書を破棄又は隠匿したと認定される可能性もあろうと考えます。4 設問4について ⑴ 本件においては亡き父親の作成した遺言書の現物は結局見つかっていません。この場合、遺言書の内容を立証することは不可能であり、遺言書の効力が認められる余地はないのでしょうか。⑵ この点については、東京高裁平成9年12月15日判決(判タ987号227頁)が参考となります。これは被相続人が弁護士に相談して自筆証書遺言の原稿を作成してもらい、それを見て被相続人が自筆証書遺言を作成したという事案です。 裁判所は、遺言書を預かっていた相続人の一人(次男)が遺言書を破棄又は隠匿したと認定した上、弁護士の原稿、被相続人の草稿、封書の見本の存在、一部の相続人が作成された遺言書の訂正の場に立ち会って訂正の正確性を確認したこと等から、本件遺言書は、民法の要求する適式な遺言書であったと推認するのが相当であると判断し、遺言書の効力も認めました。 証明妨害があったとして制裁規定(民事訴訟法224条・229条4項等)を発動させたり、証明責任の所在にかかわらず、証明の必要が妨害者の側に移転するなどの救済方法もありますが、そうするまでもなく、推認の根拠とな⑷ 本事例の場合

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