事案から学ぶ 履行困難な遺言執行の実務
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はじめに 1 「遺言執行は難しい」と思うことがしばしばあります。 ほとんどの公正証書遺言については、一般的によく用いられる遺言文言を用いて適切な表現がなされていますので、特段の問題もなければ関係者間の意見対立も発生せず、たんたんと遺産整理を進めれば足りるのであって、弁護士に依頼する必要もなく処理し得るものといえます。ところが、自筆証書遺言や公正証書遺言のごく一部において、そもそも遺言の趣旨が定かでなく、遺言文言の解釈に難渋することがあります。 遺言文言の解釈について見解の対立が発生すると、最終的には訴訟で決着を付けなければならない可能性がありますが、過去の裁判例や登記先例などには、遺言文言について裁判所あるいは法務省民事局の考え方などが示されており、これらを受遺者・相続人など利害関係人に示せば、容易に納得を得られて解決することもあります。 つまり、遺言執行に関わる実務家が過去の裁判例や登記先例などについて豊富な知識を持っていれば、多くの部分はスムーズに遺言者の意思を実現できる可能性があります。したがって、遺言執行に関わる実務家としては、常日頃から過去の裁判例や登記先例などを研究しておくべきところですが、判例集や登記先例集などを読破することは必ずしも容易ではありませんし、日々の実務の処理に追われる実務家の限られた時間の中で、自らが担当する事案に合った裁判例や登記先例を見つけることができるとは限りません。 本書は、「履行困難な遺言執行」と題して、相続案件について百戦錬磨の遺言・相続実務問題研究会のメンバーが、自ら担当あるいは見聞した事案を中心に解説した実務書です。「遺言をどのように実現すればよいのか」という相談に対する弁護士の創意工夫やノウハウが詰め込まれています。 遺言執行に関する実務的知識を全般的に身につけるのであれば、通読していただくのがよいでしょう。関心のある事案から読み進めていただいても構いません。遺言執行に関してまとめた巻末資料も、あわせてお読みいただくはじめに

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