控訴
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vii事控訴審を初めて担当することとなった裁判官はこうした控訴事件の果てしなく高い壁に幾度となくぶち当たって、恐らく最初の半年間は、日夜起案の構成に苛まれることになります。⑸ 改めて民事控訴審について考えてみましょう。 民事控訴審の審理は第一審の続審であるとはいえ、第一審とは異なる特徴があり、こうした特徴をよく理解した上で、陥りやすい過誤にも目配りする必要があります。こうした事柄は訴訟法の理論から生じるところが大きいとはいえ、極めて実践的な事柄も少なくなく、民事控訴審に関する理論的な論稿や注釈書では看過ないし軽視されがちなものも少なくないと感じていました。 私は、裁判官として約40年間の生活を送り、退官して弁護士を6年余り勤めています。私の裁判官生活のうち、米国に研修のため居た期間と裁判所長を務めた期間の併せて約2年間を除いた全期間は裁判実務の現場におり、そのうち約30年間は民事裁判実務(うち約14年間は裁判長の職務)に従事しました。そして、高等裁判所で勤務した約10年間は全期間民事控訴審の実務(うち約4年間は裁判長の職務)を担当してきました。こうした民事事件とりわけ民事控訴審を裁判官として担当する中で気付き、考えた事柄や、その後弁護士となって民事控訴審での訴訟代理人を務める中で初めて気付き、考えた事柄の中には、初めて民事控訴審を担当する弁護士、そして初めて民事控訴審を担当する裁判官に多少なりとも有益な助言となり得るものがあるのではないかと考えるようになりました。そうした事柄の多くは、理論的な分析検討を中心として論じる文献にはもとより、ハウツー本と呼ばれる書籍にも登場することの少ない実践的プラグマティックな領域に属するものであって、裁判官なり弁護士なりが、その実務の現場で、折々に接する経験豊かな諸先輩から様々な機会を通じて見聞することにより体得してきたものではないかと思います。とりわけ昨今そうした見聞の機会がどこの現場でも大幅に少なくなっているように伺われるところであって、誠に残念に思っています。そして、中でも、民事控訴審の現場実務について、その重要性にもかかわらず、実践的な諸問題を論じる文献が甚だ少ないことは誠に残念なことと言わなければなりません。オリエンテーション

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