オリエンテーションviii 私が本書を書こうと考えたのも、民事訴訟の現場とりわけ民事控訴審の現場に長く身を置いて、様々に悩み、また訴訟代理人として改めて悩んだという経験から、その中で得た実践的な体験に基づき、現在また将来民事控訴審の実務に身を置く法曹の方々に多少なりとも問題意識を提供したいと思ったからです。そのため、理論的な論文形式ではなく、講義形式により、控訴代理人となるのが初めてかそれに近い弁護士、多少控訴代理人としての経験を経た弁護士及び初めて高等裁判所での勤務をする裁判官に受講者として登場してもらい、現場実務の要点を平易にお話しようと思います。実践的な話題を心掛けるために、実例を紹介したりして経験的な話が多くなって、つい脱線気味となることをお断りし、また、控訴審実務も結局は訴訟実務一般を基本とするものであることから、控訴審だけに囚われず広く民事訴訟一般に関する話題に話が広がってしまうことをお許しいただきたいと思います。⑹ 控訴審実務の話に入る前に、民事訴訟法の一部改正に関するお話をしておきましょう。令和4年に民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)が成立し、同年5月25日に公布されました。この法律は、民事訴訟手続の全面的なIT化を可能とする規定の整備などを主な内容とするものであり、全面施行は公布日から4年以内が予定されています。本書が取り扱う民事控訴審の実践分野に与える影響は、手続のIT化に伴う変更点を除くと、それほど大きいものではありませんが、用語の変更や控訴審で準用する第一審の手続に関する規定における変更もあるので、改正後の法についても注記することにします。ただし、初出後の記述では注記を省略する場合もあることをあらかじめお断りしておきます。 なお、本書において「改正法」として引用する条文は上記の令和4年法律第48号による改正後の民事訴訟法の条文であり、「現行法」あるいは単に「法」として引用する条文は上記の令和4年法律第48号による改正前の民事訴訟法の条文です。また、民事訴訟規則(平成8年最高裁判所規則第5号)については、平成27年最高裁判所規則第6号による改正後の条文を記載しています。
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