6⑵ 第一審判決の徹底的検討 控訴の検討に当たり、第一審判決書は、第一審裁判所が、第一審での審理を経て、受訴裁判所としての認定判断をまとめたものですから、まずこれをきちんと始めから終わりまで熟読すべきことは言うまでもありません。得てして結論の部分、結論に直結するような認定判断部分に目を奪われて判決の評価をしてしまいがちですが、確定判決であればともかくとして、なお審理中の過程で示された一つの判断にすぎないことをよく肝に銘じた上で、冒頭から末尾まで丁寧に読み、請求及び主張の整理が的確にされているかを随時手元記録と対比し、事実整理の正確性を確かめつつ、認定判断の構造、証拠の取捨選択の適否などを虚心坦懐に理解することから始めなくてはなりません。 「裁判官は弁明せず」とあるように、判決書は第一審の審理を担当した裁判官(裁判体)の事実認識に基づく事実の認定とこれに対する判断を過不足なく記載することが予定されているものであり、判決書の記載を超える解説や注釈などはありません。その点は最高裁判決であっても変わりはなく(最高裁の裁判官は少数意見や補足意見などの個別意見を判決書の中で表明することができるのに対し、事実審裁判所の合議体の裁判官は個別意見を判決書の中でも表明することはできません。)、判決書に記載のないものはたとえ担当調査官の執筆する調査官解説に記載されていたとしても、判決の内容を補充したり制限したりするも講師 はやる気持ちは分からないでもありませんが、判決書(改正法では「電子判決書」といいます。以下同じ。)送達前の控訴を有効とする規定(法285条ただし書)があるとはいえ、判決言渡し前の控訴は、後に判決の言渡しがあった場合であっても無効とされていますから(最判昭和24年8月18日民集3巻9号376頁)、先走って慌てないようにしましょう。第2章 控訴(附帯控訴)の提起が、どうでしょうか。 講義に戻ります。次に控訴をするかどうかを考えるに当たっては、どのような準備をしてどのような点について検討する必要があるかを考えてみましょう。
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