控訴
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iii⑵ ところが、驚くべき第一審判決の一群がありました。 高等裁判所に勤務して、常時百件、二百件の第一審の訴訟記録及び判決書を見ることとなって、当然のことながら、予想通りのきちんとした審理をしてきちんとしたと思われる判決をしている事件がありました。 その一方で、驚いたことに、一見して明らかに審理のやり方がおかしい、審理の進め方が不適当であるというものや、最終的な結論の当否についてはしばらく措いても、審理に当たり必要な釈明権を行使せず、明らかに必オリエンテーションオリエンテーション民事控訴審は必要か?⑴ 不遜ながら、「民事控訴審は不要ではないか。」と思っていました。裁判官に任官してから20年目に初めて高等裁判所勤務となり、専ら民事控訴審を担当するまでは。 民事第一審裁判所の裁判に対する不服申立てとしてどのような上訴制度を設けるかについては、その国の司法制度設計上の選択であって、例えばアメリカ合衆国の各州においては、控訴審に当たる中間上訴裁判所を設けていない州も決して少なくありません。そして第一審の民事判決に対する上訴をどの範囲で許し、また上訴審においてどのような審理方式をとるか(審理の対象を何とするか、また新たな証拠調べをするかどうかなど)については様々であって、続審制を採るわが国の民事控訴審の制度が決して一般的であるなどというものではありません。 といっても、私の冒頭のような感想はそうした制度論に由来する高邁なものではなく、民事第一審を担当している裁判官として、事実審として第一審に加えて第二審を設ける必要はほとんどないのではないか、第一審裁判所は当事者と直接相対し、その場で直接話に耳を傾けた上で、きちんとした審理をして自分なりにきちんとした裁判をしているという自負(思い上がり)があったように思います。

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