第4振り返り第41 「セルフネグレクト」や依存症への支援の難しさ Aさんの自宅は不衛生で「健康で文化的な」生活とは呼べない状況でしたが,それは法第27条文書指示や保護の停廃止で解決できるものではありません。また,Aさんは表面的には自宅の状況について困っている様子や恥ずかしいと感じているような様子は見せませんでした。 近年,成人が通常の生活を維持するために必要な行為を行う意欲・能力を喪失し,自己の健康・安全を損なう「セルフネグレクト」という言葉が注目されていますが,Aさんがなぜ支援を拒み,不衛生な状況に身を置き続けていたのかは分かりません。また,アルコールや薬物などの依存症は「否認の病」と言われ,周囲も本人も問題が依存対象(アルコール・薬物等)にあることを認めないことが少なくありません。 依存症と診断される方は,アルコールや薬物などで生活に綻びや破綻が生じていても,それを「だらしない」などの本人の気質の問題と周囲も捉えてしまうことが多く,もしもAさんをアルコール依存症治療につなげることができていたら違う結果となっていたかもしれません。また,家族との交流も途絶え,離職後は地域から孤立した生活を送っていたAさんにとっては,一人お酒を飲むことだけが唯一の楽しみであったのかもしれません。そのAさんへ介護保険デイサービスへの参加などでの社会生活自立の回復が図られて85事例1 アルコール問題が疑われる人への支援なりました。 しかし,その後も飲酒を続けたAさんはアルコール依存症治療や断酒にはつながらないまま,救急搬送での入院を繰り返すこととなり,次第に日常生活動作(ADL)が低下し,失禁や歩行困難が見られるようになりました。 住環境の改善が見られ,落ち着いた生活を取り戻したかのように見受けられたAさんでしたが,ある日娘がAさん宅を訪れたところ,居室で裸のまま亡くなっているAさんが発見されました。
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