14_支保
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おわりに215指すのかは被保護者本人自身の考えによるべきものです。すると,保護からの脱却という自立内容がわかりやすい就労自立とは異なり,自立内容が多岐にわたる社会生活自立,日常生活自立については,被保護者それぞれが希望する自立目標が生じることになります。しかし,最低限度の生活を維持できない人を対象としている生活保護では,本人の希望通りの無制限な自立支援は難しいと思います。 つまり,生活保護行政の自立支援とは,最低限度の生活保障を踏まえた自立の支援にならざるを得ず,そこが限界かもしれません。例えば,ごみ屋敷などで不衛生な生活状態,ひきこもり,不登校,拒薬の障害者などは保護費の支給だけでは健康で文化的な最低限度の生活を行えない可能性が高いことから,これらの被保護者には生活保護行政の自立支援は必要だとは思います。しかし,最低限度の生活を維持するものではない場合には生活保護行政の範囲を超えていると思います。この場合は,最低限度の生活保障を目的とする生活保護ではなく,他の支援施策による支援が必要なのです。 社会生活自立,日常生活自立が生活保護の目的となり,様々な生活課題が可視化されやすくなったことで,被保護者だけでなく関係者等からもケースワーカーへの要望が増え,ケースワーカーの役割,生活保護ケースワークの範囲についての判断が難しくなったように思われます。 本書刊行の契機のひとつに,生活保護ケースワーカーと行っている支援困難事例の研究会での議論があります。この研究会はケースワーカーが支援に当たり苦慮する事例,どのようにしてよいか分からない事例などについての支援方法の検討を行うもので,筆者が福祉事務所から大学に移籍した2011年から始まりました。 研究会のメンバーには複数の自治体のケースワーカー,査察指導員が参加しているため,事例検討の中で地域による社会資源の違い,福祉事務所ごとの判断基準や異なる事務処理方法などが分かり,生活保護行政を広く見ることができるようになりました。

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