はじめに1) 池谷秀登「生活保護におけるケースワークの意義と範囲」菊池馨実編著『相談支援の法的構造─「地域共生社会」構想の理論分析』(信山社,2022)99〜115頁ii【生活保護ケースワークの意義と範囲】 生活保護ケースワークについては本書執筆中に外部委託の議論が生じました。この議論は以前からあったようですが,令和元年12月23日の閣議決定「令和元年の地方からの提案等に関する対応方針」では,ケースワークの外部委託が可能な業務は必要な措置を講じ,現行制度で困難なものは外部委託を可能とすることの検討を行うことになりました。 ケースワークの外部委託について,筆者は生活保護の目的である最低限度の生活を保障するためには,ケースワーカーからケースワークを切り離すことはできないことを述べました。1)しかし,このような議論が生じるのは,生活保護ケースワーカーの業務自体への誤解や生活保護ケースワークが理解されていないからではないかと感じています。 各地の研修では,ケースワーカーに被保護者の入院保証書や手術等の同意書への署名,さらには身元引受を医療機関や施設から求められるとか,銀行からの年金の引出し,不動産賃貸借の保証を要求されるなど,その対応に困っているなどの相談がかなりありました。この他にも通院,入院,転院時のケースワーカーの付き添い,警察が保護した被保護者の引き取り,近隣トラブルの仲裁,孤独死した被保護者の住居の片づけや,家財等の廃棄物処分等についても,ケースワーカーならば対応するのが当然とばかりに要求され,福祉事務所内でも判断に迷い,結局は担当ケースワーカーが行わざるを得ない状況となっているなどの訴えもあります。どこまでがケースワーカーの業務なのかがあいまいなままに,被保護者に生じる問題について,被保護者の言える業務量の多さと,生活保護受給者に対する対人支援=生活保護ケースワークの大変さが挙げられると思います。また,ケースワーカーの役割や生活保護ケースワークについて十分に整理されていないことから生じる問題もあるのではないでしょうか。
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