はじめにiv保護行政の実務にはあまり役に立つとは思えません。 ケースワーカーが悩む実際に生じている事案では,マニュアルを読んで解決するほど容易なものはあまりありませんし,支援の検討は被保護者やケースワーカーなどの支援者の各状況を具体的に,丁寧な分析をする必要があります。そこでは,時間がかかることがほとんどで,支援を行っても成果が挙がるかどうかは分からないことも多いように思います。 様々な課題を抱えている被保護者に対する支援には,保護費の適切な給付とともにケースワークによる支援が重要と思われますが,実際の現場ではテキストどおりに進むことはあまりないと思います。また,生活保護行政では扶助費を媒介にして,ケースワーカーと被保護者との関係が成り立っていますから,同意を前提として成り立つ医療ソーシャルワーカーや介護保険のケアマネージャーなどとは異なります。 「支援困難事例」とはケースワーカーと被保護者の関係性が壊れている場合,関係性が作れない場合が多いと思われます。そこで,支援を考えるに当たっては主体と客体,その両者の関係性を検討することが重要と考えます。本書では支援する側のケースワーカー視点で検討をしていますから,支援困難事例をめぐっての主体はケースワーカーになり,被保護者が客体となります。客体についての分析は必要ですが,その分析を行うためには,主体の側の状況の認識が重要となります。ただし,この主体と客体の関係は主体が客体に働きかけるだけの一方的な関係ではなく,働きかけに対しての被保護者(客体)の反応(拒まれたり,無視されたり,納得や理解して同じ方向で努力してくれたり)が,主体であるケースワーカーに跳ね返りケースワーカーへの影響を与えることもあることから,相互に影響を与え合う双方向の関係性でもあることに注意が必要になります。 このように,生活保護行政で支援困難と言われる被保護者についての検討に当たっては,被保護者だけの問題ではなく,支援を行うケースワーカーと福祉事務所組織の支援力の問題とともに,生活保護行政の運用自体も検討することが必要であると考えます。
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