不証
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第2節不動産訴訟における資料の役割1 不動産訴訟の特徴4第2節 不動産訴訟における資料の役割1) また不動産は可視的であることに加え,日常に密接している等の特徴もある。人間目に見えるものに手を加えると愛着がわくものである。このような保有効果(endowment effect)は不動産に関わる紛争をしばしば激化させる要因となる。保有効果についてはさしあたり,Richard H. Thaler『行動経済学の逆襲』(早川書房,2016年)を参照。⑴ 可視的であること 不動産に関する権利関係をめぐる訴訟の場合,金銭債権のような一般的な債権と比較し,対象物である不動産が可視的であることは,一つの特徴として挙げられてよい。1)すなわち,金銭債権の法的効果(請求権)を発生させる要件は通常一定の歴史的事実であり当然ながら可視化できないため,これを契約書等の文言解釈によって確定していくことになる。これに対し,不動産は実在している(現況が確認できる)ため,不動産訴訟において解釈が必要となる場面では図面等の書類よりも現況が優先される場面は多い。❖不動産取引の場面でも「実際の物件が図面等と相違がある場合は現況を優先する」などといった条項が契約書にあることが多い。これは基本的には,図面の正確性に限界があることを前提として,枝葉末節にわたるような当該図面との食い違いを問題としないことを約する趣旨のものであるが,図面と現況のかい離が大きければ問題となり得る(東京地判平成22年3月9日判タ1342号190頁は,公図等を受け取っていたことから直ちに,取引対象土地の性状や土地の現況と公図記載の形状とが大きく異なることにより生じるであろう問題について認識していたとまでは認められないとして,土地売買契約で土地の現況と公図の記載とが異なっている場合,当該土地につき平成29年法律第44号改正前民法570条の瑕疵があると認めた)。

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