不証
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第1節 所有権関係11) 鎌田=寺田189頁〔安永正昭〕。54 ⒝ 権利部の場合  権利部登記に事実上の推定力が認められるのは,登記申請における共同申請(不動産登記法60条)という態様それ自体に,実質的に権利関係について自白が成立していると見られるからである(民訴179条参照)。登記をすることにより直接不利益を受ける者(登記義務者)があえて権利の登記をしてくるわけであるから,登記権利者の所有権を認めても差し支えない。11)また,当事者に所有権の処分権能がある以上,登記官が権利変動について職権で調査する根拠は表題所有者の登記に比べると強いものではないともいえる。⑷ 反 証 判例の準則に従い,原則としては不動産登記簿に所有者として登記されている者が所有者であると事実上推定すべきであるとしても,あくまで推定であるから,反証によって覆ることがある。当該不動産の取得の経緯,取得原結果を平均的な登記官の注意力をもって吟味した上,その疑問が解消し,申請者に所有権が帰属していると一応推認できる程度の心証を得れば,申請のとおりの表示登記をすることができる(前記福岡高判平成元年10月25日参照)。なお,不動産登記法は,29条1項にいう「必要があるとき」の意義について具体的に定めていない。登記官が不動産の表示に関する登記の申請があった場合に改めて当該不動産の表示に関する事項について自ら調査をすることを要するか否かは担当登記官の合理的裁量に委ねられているものと解され,不動産の表示に関する登記の申請書の添付書類等により,不動産の現況を把握することができ,当該申請にかかる登記事項が不動産の現況に照らして十分正確であると認められる場合には,登記官が重ねて当該不動産の表示に関する事項について調査をする必要はない(東京地判昭和62年5月13日判時1274号101頁)。また,登記官が調査によっても申請人に所有権が帰属していることについて合理的な疑いが残るときは,申請のとおりの表題部所有者を認定することができないものとし,それ以上の調査をするべき義務はない(東京地判平成6年12月19日登記先例解説集35巻7号141頁)。

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