はしがき2020年のコロナ禍以降,押印や書面,対面の非効率な側面が露呈し,デジタル化への取り組みが官民で加速しました。商業登記分野においても,それらに呼応し,法改正や通達によって利用できる電子証明書の拡大,証明書発行手数料の引下げ,発行手続きのオンライン化等が矢継ぎ早に実現し,登記申請や周辺業務をデジタルで完結させるための土壌は整えられて,その敷居は随分と下がりました。しかしながら,現場では,商業登記の完全オンライン申請の普及には,今ひとつ伸び悩みを感じています。案外,その背景には,その実務を俯瞰・体系化しつつ詳解した書籍やWebサイトがないためではないかとの素朴な疑念が,本書執筆の起点です。振り返れば,私自身,かねてより,商業登記の完全オンライン申請を看板に掲げて実務に注力して参りましたが,寄る辺は,関連法令と法務省Webサイトの方々に点在する新旧の情報の他に乏しく,暗がりの洞窟を手探りで歩んで来たような心持ちでありました。同業者やクライアントから本テーマでの研修依頼と反響も増えてきて,少なくないニーズがあることを推量し,ならばと,その紆余曲折の冒険の記録に松明を立てて一本道にしたのが本書です。本書は,商業登記に携わる司法書士・弁護士のみならず,本人申請で登記を行う企業の代表や担当者であっても実践できるよう,複雑な概念は図表で紐解き,署名や検証,申請の手順は操作画面を貼付し,簡明な記載を心掛けました。本書が,企業のDXを推進し日本経済を躍進させる一助となり,一方で,司法書士の時間や場所に因われない自由な生き方を実現する一端を担えればと,蝶の羽のわずかな震えが竜巻を起こすような壮大な夢を見て上梓いたします。本書の刊行にあたっては,日本加除出版株式会社の朝比奈耕平氏に多大なご尽力をいただきました。ここに厚く御礼申し上げます。2023年11月吉田直矢1はしがき
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