イ 次に,記載例4では,甲又は先代乙の所有権喪失の原因事実の主張,記載例5ないし7では,前主甲の所有権喪失の原因事実の主張が考えられる。通常は,被告への所有権移転の主張であろうが,第三者への移転でも乙又は甲の所有権は消滅する。 ウ さらに,記載例4ないし7の原告らが所有権(共有権)を取得したことを前提として,その喪失の原因事実の主張が考えられる。 エ また,記載例7の甲から原告らへの持分移転については,原告の所有権(共有持分権)の取得について,対抗要件が必要であるとの抗弁が考えられる。 最二小判昭和46年6月18日民集25巻4号550頁は,「不動産の共有者の一員が自己の持分を譲渡した場合における譲受人以外の他の共有者は民法177条にいう『第三者』に該当する」として,登記上の持分を基準に共有物分割を命じた原審判断を是認した。 対抗要件についての立証責任は説が分かれるが,第三者の側において,登記欠缺を主張する正当な利益があることの事実主張と対抗要件の有無を問題として争うとの権利主張をすればよいとする権利抗弁説が通説である(『4訂 紛争類型別の要件事実』64頁)。 記載例5の甲から原告らへの所有権(持分権)移転についても,被告が甲から買い受けたなどと主張する場合は,第三者である被告が対抗要件欠缺の抗弁を主張する余地はある。しかし,記載例6の被告は,②の売買契約の買主が被告であると主張する場合などには,原告らの共有持分取得について,民法177条の第三者ということはできないと思われる。⑵ 抗弁の記載例ア 通謀虚偽表示【記載例8】記載例4の請求原因②の甲乙の売買契約について78第2章 共有不動産に係る確認請求訴訟,共有物分割請求訴訟等 甲から乙への売買契約は,真実は甲から被告への売買であったが,税務上の配慮から被告が乙名義を借用し,甲と乙が通謀して,甲乙間の売買契約を仮装したものであり,同契約は通謀虚偽表示により無効である。
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