組合員が請求の根拠とした管理規約の条文を具体的に確認する必要がありますが、管理組合が個々の組合員に対して債務として共用部分を維持管理する義務を負うことを定めた規定や、そのことを前提とする規定がない限り、管理規約違反を前提に、損害賠償請求はできないと解されます。A101解説管理規約には、個々の組合員と管理組合との間の権利義務関係を定めた規定と、管理組合の目的・権能を定めた規定とが混在しています(なお、問153も参照してください。)。本問のケースでは、管理組合の共用部分を管理する義務について定めた規定を根拠として、共用部分を原因として発生した漏水につき、規約違反に基づく損害賠償請求が認められるか否かが問題となります。標準管理規約21条は「敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。」と定めており、多くの管理組合の管理規約で、同様の規約条文が設けられています。また、標準管理規約32条は、管理組合は、「管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下本条及び第48条において「組合管理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理」や「組合管理部分の修繕」などの業務を行うと定めています(標準管理規約32条1号、2号)。多くの管理組合の管理規約で、細部の文言は異なることもありますが、同趣旨の内容が管理組合の業務として定められています。福岡高判平成12年12月27日判タ1085号257頁においては、上記標準管理規約21条と同様の規約を根拠に、「管理組合において管理すべき共用部分に起因して個々の区分所有者に損害が発生した場合、その区分所有者の責に帰すべき事情がない限り、その損害が最終的には全区分所有者間でその持分に応じて分担されるとしても、先ずは管理規約に基づいて管理組合に対して請求できると解するのが相当である。」と判示しています。他方、近年、多くの裁判例では、標準管理規約21条又は32条1号、2号と同趣旨の規定を根拠として、直ちに、管理組合に対し、規約違反に基づく損害賠償請求を行うことは認められていません。例えば、近年の裁判例の中で代表的な東京高判平成29年3月15日判タ1453号115頁においては、標準管理規約21条に当たる規定について、問73 損害賠償請求の問題(規約に基づく損害賠償請求)
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