16_オープン
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5この時代の技術法務は,以下のようなものだった。すなわち,例えば,マーケットの成長に伴って,訴訟戦略(囲い込み戦略)から,ライセンス戦略(オープン戦略)に転換する事例5)において,研究開発テーマの選定→研究開発成果の資産化→知財訴訟遂行→ライセンシングの各過程において生じる法務・知財をシームレスに有機的に展開していくというものである6)。技術法務1.0は,従来分断されていた業務,例えば,権利化,訴訟,契約の各過程を一人の担当者(又は一つの部署)が担うというものであった7)。1 技術法務1.0(〜2000年前半)5)市場独占が可能な時期は,新規参入企業に対して差止請求を行い(訴訟戦略),マーケットの拡大に伴い,あえて他社の市場参入を許容し,ライセンス料を収受し(ライセンス戦略),事業収益の最大化を図る戦略である。6)前掲注1・鮫島191頁〜192頁7)この時期,既に,技術の理解のもと,事業目的達成に向け,法務・知財を融合的一体的に,一人の担当者が業務提供を行うという技術法務の原理は確立していた。なった。インターネット普及以前,法律的な知見は弁護士に偏在していたため,法律的な知見を語るだけで弁護士は付加価値のあるアドバイスができた。あらゆる法律的な知見がほぼ無償で提供されるようになったインターネット社会においては,そのレベルのアドバイスではもはや付加価値がない。より付加価値のあるアドバイスとは何か,それは,法律的な見地から分析された顧客ビジネスについて,①そこに存在するリスクを画定し,②そのヘッジ方法に関するアドバイスを行うことである。なぜならば,このレベルの情報はインターネットには存在しないからである(インターネットには一般論は存在するが,当該状況・ビジネス固有のリスク及びそのヘッジ方法は存在しない。)。技術法務は「顧客の状況・ビジネス固有のリスク及びそのヘッジ方法」をアドバイスすることを起点とする。そして,技術法務は,技術的なビジネスを主眼に置いていることから,分析にかかる視点を法務領域のみならず知財領域にも広げ,顧客が晒されているリスク及びそのヘッジ方法についてアドバイスすることを目的とする。ただ,技術法務の目指す完成型は,単なるリスクヘッジにかかるアドバイスにとどまるものではなく,③顧客の事業価値を向上させるための方法論にまで至るべき,ということになる。

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